12月

パーティの翌日、私は自分のアパートで前の晩にあったことを思い返してみた。前の晩は彼女に拒絶されたことがショックで、何も考えることができなかったのだが、次の日は冷静に前日に起こったことを考えてみた。公園で彼女が私に言ったこと、私に話しかけていたときの彼女の顔の表情やしぐさなどの一つ一つを思い出してみた。素面になってそれらをよく考えてみると、私は彼女にまだ100%嫌われている訳ではないような気がした。
 それからというもの私は機会があれば、パーティの夜にしたように、彼女に私に対する彼女の気持ちを探ってみた。そのたびに彼女から返ってくる答えはイエスのようなノーのようなどっちつかずの、どちらにも取れるような答えだった。はっきりと「あなたの顔なんか二度と見たくない!」と嫌われてしまえば、きっぱりと彼女のことをあきらめることもできたのだが、彼女の答えをどちらに判断してよいか分からず、私は頭がおかしくなってしまいそうだった。
 ところがそれからしばらくして彼女のことをあきらめざるを得ないことが起こった。
 それは同じ年の12月のことだった。私はいつものようにサークルの活動を終えて、彼女と一緒に電車に乗って、自分のアパートに帰る途中だった。私の住むアパートと彼女のアパートは同じ路線上にあり、彼女のアパートの方が大学に近かった。先に電車が彼女の住む町の駅に到着して、電車の扉が開くと、彼女はニッコリ笑って私に言った。
「じゃ、また明日」
「じゃあ」と私は言った。彼女は振り返り、電車を降りて、エスカレーターの方に歩いて行った。私は立ったまま、扉が開きっぱなしになっている電車の出口から、去って行く彼女の後姿を眺めていた。電車は逆方向の列車の待ち合わせをしているのか、扉が開いたまま、なかなか発車しなかった。その間中私はずっと彼女の後姿を見続けていた。彼女がエスカレーターに乗って、姿が見えなくなろうとした瞬間、私は何者かに背中を押されたように、ふらふらとその電車を降りていた。そして私は彼女の後を追った。
 彼女は駅の改札を出ると、自分の住むアパートに向かって歩いて行った。私は彼女に気付かれないように、彼女の後を追った。私は自分がすべきでないことをやっている、ということを頭の中では分かっていた。ところがなぜだか分からないがその行為を止めることができなかった。
 10分ほどで、彼女は自分のアパートに着いた。そのアパートは二階建てで、側面に階段がついていた。私は近くにある建物の陰にいて、彼女がその階段を上っていくのを見ていた。彼女は二階に着くと、廊下を歩いて自分の部屋に向かった。すると彼女は明かりの点いたとある部屋の前で立ち止まった。彼女がしばらくその部屋の前に立っていると、部屋の扉が内側から開き、中から影が出て来るのが見えた。その影は彼女に近づくと、彼女のことを覆った。彼女は影に覆われながら、両腕を影の後方に回した。しばらくの間影と彼女はそのまま動かずにいた。やがて、影と彼女はしっかりと重なり合ったまま部屋の中へ入って行った・・・。

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