それは九月にあったサークルのパーティの時のことだった。とある裕福な部員の家の庭でバーベキューパーティが行われた。その日はほとんどすべての部員がその家に集まり、庭で肉や魚貝類や野菜などを焼き、お酒やソフトドリンクを飲みながら楽しいパーティとなった。彼女もそのパーティに来ていて、私は彼女の近くに座って、いつも以上に彼女といろんな話をすることができた。お酒を飲みながら彼女といろんな話をしているうちに、私が思い描いていた計画を実行に移すのは、その日しかないような気がしてきた。私は彼女を家の外に連れ出すことにした。
「何かアルコール以外のものを飲みたくない?ずっとお酒ばかり飲んでると、悪酔いしちゃうよ」と私は彼女に言った。すると彼女は少し考えて言った。
「そうかもね」
「コンビニに行かない?」
「いいわよ」と彼女は言った。
私は立ち上がり、周りにいるサークルのメンバーに、ちょっと彼女とコンビニに行ってきます、と言った。するとそれを聞いたサークルのメンバーは次々に自分たちの食べたいものや飲みたいもの、ポテトチップだのケーキだのコーラだのを私たちに頼みはじめた。あんまりいろいろ注文されるので、こんなことなら何も言わずに出ていけばよかったな、と思った。
そのコンビニは家から歩いて10分ほどの駅の近くにあった。暗い夜道の中を彼女と並んで、他愛のない話をしながら、コンビニまで歩いて向かった。その間に私は頭の中で、どうやって計画を実行に移すか一生懸命考えていた。買い物があるから、やるのは帰りだな、と思った。
コンビニにつくと自分たちが飲もうとしていた飲み物や他の部員から頼まれたものを買った。全部買ったら大きな買い物袋二袋分になった。買い物が済むと、私と彼女は一袋づつ持って、再び家のほうへ歩いて向かった。
暗い夜道を家のほうへ彼女と歩いていきながら、私は辺りを見渡し、どこか彼女と二人きりになれるところはないか探した。すると運よく前方に小さな公園を見つけた。それは私の計画を実行に移すのにうってつけの場所のように思えた。私は歩きながら、彼女に言った。
「あそこの公園でちょっと休まない。たくさん歩いてなんだか疲れない?」すると彼女は、
「そうね」と言った。私たちはその小さな公園の中に入っていった。
それは滑り台やブランコや水飲み場がある小さな公園だった。公園の中央には一本の街灯があり、それは公園の中を小さく照らしていた。私と彼女は公園内にあるベンチに並んで座った。私たちはしばらくの間そのまま何もしゃべらず、ベンチの上に座っていた。公園の中には私たち以外は誰もおらず、とても静かだった。どこかからか虫が小さい声で鳴いているのが聞こえてきた。先に口を開いたのは私の方だった。
「最近彼とは上手くいってる?」
「彼?」と彼女は言った。
「ほら法学部の。よく部室に一緒に来てた」すると彼女は、悟ったように「あぁ」と言った。「どうして?」
「いや、最近見ないから。どうしたのかな?と思って」と私は言った。すると彼女はうつむきながら、「別れたの」と言った。私は思い切って、次の言葉を言ってみた。
「じゃあ、自分と付き合わないか」
私はその言葉を発した後、しばらくの間ただ黙って彼女の返事を待っていた。ところがいつまでたっても、彼女から返事は返ってこなかった。おそるおそる横目で彼女を見ると、彼女は公園の中のどこかを黙ってじっと見つめていた。私が彼女の横顔を見つめていると、ようやく彼女は口を開いた。
「彼としばらく付き合って、いろんなことがあって、男の人と付き合うのに疲れちゃった。しばらくは一人でいたい」それを聞いて、私は慌てて次の言葉を続けた。
「じゃあ、しばらく時間がたって、彼のこととか全部忘れることができたら、自分と付き合ってくれないかな」すると彼女は私のほうを向いて言った。
「今、こうしてあなたや他のサークルのメンバーとサークルの活動をしているのがすごく楽しいの。もしわたしとあなたがそんなことになったら、これが全部終わってしまうかもしれないでしょう。そんなことになって欲しくない」私は彼女が言っていることの意味がさっぱり理解できなかった。私は一生懸命彼女が自分の方を振り向いてくれるような言葉を探した。ところがいくら探してもそれ以上言葉は見つからなかった。とっさに出てきたのは自分の正直な気持ちだった。
「ずっと近くにいて欲しいんだ」
それを聞くと彼女は下を向いて、つぶやいた。
「それはできないわ」
それ以上私は言葉を継ぐことができなかった。私はうなだれたまま、ただ公園の地面を見つめていた。彼女はそんな私の横にしばらくの間何も言わずに座っていた。私があまりに長い間黙っていて身動きしないので、心配になったのか、彼女は私のひざに手を置いて言った。「もう行こう。みんなが待ってる」
彼女にそう言われても、私は立ち上がらなかった。私が公園の地面を見続けていると、彼女はため息を一つついてベンチから立ち上がり、買い物袋の一つを手に取って、「先に行ってるね」と言って、公園から出て行ってしまった。
もちろん私は彼女に自分のことを受け入れてもらえるとばかりは思っておらず、拒絶されることに対して心の準備もしていたのだが、実際に拒絶されると、そんな準備も全く役に立たなかった。私はもうパーティに戻って、他のメンバーと騒ぐ気になんてならなかった。そのまま自分のアパートに帰ってしまおうかとも思ったのだが、自分の荷物もまだ家に置いてきたままで、もし何も言わずにいなくなったら、他のメンバーが心配するかもしれないと思い、あれこれ考えた末に仕様がなく、家に戻ることにした。
パーティに戻ると、他のメンバーはますます楽しそうに盛り上がっていた。彼女もすでに戻っていて、ほんの少し前にまるで何事もなかったかのように、周りにいるメンバーと楽しそうにはしゃいでいた。
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