大学の構内にある、ダンスのデモが行われている教室に近づくと、中から大きな音楽が聞こえてきた。女子大生はその教室の扉を開けて、私たちを中に招き入れた。その教室の中は机や椅子がかたずけられていて、中央で二組の男女のカップルが音楽に合わせてダンスを踊っていた。男性は黒いタキシードを着ていて、女性は薄い素材で出来た、腕や足がたくさん見える、赤や青の派手なひらひらの衣装を着ていた。二組のカップルの前には椅子が並べられていて、そこには新入生と思われる学生が座って、ダンスを見ていた。私と私の連れの男子学生も並べられている椅子の最後尾に座り、ダンスを見た。私はダンスは全く詳しくはなかったのだが、二組のカップルは実に上手にダンスを踊っているように見えた。一つのダンスが終わると、違う種類の音楽がかかり、別の種類のダンスが始まった。カップルは有名なアルゼンチンタンゴも踊った。すべてのダンスを踊り終わると、椅子に座っている新入生たちは盛大な拍手をし、二組のカップルはそれに対して恭しくお辞儀をした。するとカップルの中の一人の男性がマイクを取り、新入生に向かって話を始めた。
「今日はみなさん、私たちのデモを見に来てくれて、ありがとう。私たちのダンスはどうでしたか?」そんな風に男性が新入生に尋ねると、あちこちから、「良かったです」とか「素敵でした」という声が聞こえた。するとその男性は「ありがとうございます」と言った。「私たちのダンス部は歴史が長くて、創設からもう40年ぐらい経っています。いろんな大会にも参加していて、いつも何かしら賞を獲っています。部員も多くて、みんな仲良く練習していますから、興味のある方はぜひ入部してください。きっと楽しいと思いますよ。今日はこの後、部についての説明会を開きますから、ここにいる部員に分からないことがあったら、なんでも聞いてください。説明会の後には歓迎会も予定していますから、来たい方はどなたでも来てください。参加費は無料です」そこまで話すと男性はマイクを置いた。教室の周りを見渡すと、いつの間にか壁際にはダンス部の部員と思われる学生が大勢並んでいた。すると、ダンス部に興味のない学生は教室から出ていき、興味を持った学生たちは部員たちのところに行き、ダンス部についての説明を聞きに行った。私は隣に座っている連れの男子学生に聞いてみた。
「どうだった」
「よかったよ」と男子学生は嬉しそうに言った。
「入るのか」
「ちょっと説明を聞いてみるよ」私たちがそんな風に会話していると、私たちを勧誘した二人の女子大生が再び私たちのところにやってきた。
「どうだった?」とそのうちの一人がにこにこ笑いながら私たちに言った。間髪を入れずに私の連れの男子学生が女子大生に言った。
「とても良かったです」
「そう。じゃ、入部する?」
「いろいろと部について話を聞きたいんですが」
「いいわよ。なんでも聞いて。私たちが説明するから」と女子大生が言った。「あなたたち歓迎会も来るわよね」
「行きます」と連れの男子学生はすかさず言った。すると女子大生は私の方を向いて、「あなたは?」と言った。私は行かない方がいいような気がした。なぜなら私はダンス部に入るつもりは全くなかったから。
「私はちょっと」と私が言うと、女子大生は「なんか用事があるの?」と言った。
「別に用事はないんですが」
「じゃ、来なさいよ」
「私はダンス部には入らないと思うんで」
「そんなの関係ないわよ。新入生の歓迎会なんだから」と女子大生が言った。私がどうするか迷っていると、隣にいる連れの男子学生が、
「来なよ。別に用事ないんだろ」と私に言った。
「用事はないけど。入部もしないのに、行ってもいいのかな?」と私は小声で言った。
「良いって言ってるだろ」と男子学生は言った。
「そうか。じゃ、行こうかな」と私は言った。
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