新入生歓迎週間

テレビを買ってから1週間後、大学生活が始まった。大学が始まってからの10日間は「新入生歓迎週間」と呼ばれていて、講義の履修についての説明会や、健康診断などが行われた。その期間は大学のメインストリートにクラブやサークルが屋台を出していて、新入生を勧誘していた。焼きそばやたこ焼きなど、食べ物の出店があり、音楽サークルやダンス部はバンド演奏や、踊りのパフォーマンスなどをしていて、それは一種お祭りのような状態だった。私は説明会で知り合った同じクラスの男子学生とそんな中を歩き回っていた。するといくつかのサークルやクラブから、勧誘を受けた。ほとんどのクラブやサークルは新入生に優しく声をかけていたが、空手部やアメリカンフットボール部など体育系のクラブは実に荒っぽい勧誘をしていた。体格の良い男子の新入生を見つけると、空手着を着た学生やアメリカンフットボールの恰好をした部員たちはその新入生の周りを取り囲み、少しでもその学生が興味を示そうものなら、2~3人でその学生を抱えて、無理矢理自分たちの部室に連れて行っていた。私も比較的体格の良い方だったので、いくつかの体育系のサークルに声を掛けられた。私は体育系のクラブに全く興味がなく、そんな風に無理やり連れて行かれてはたまったもんじゃないと思い、知り合った男子学生と、早々にメインストリートから立ち去ることにした。
 午後1時頃に、私とその男子学生は大学構内のカフェで昼食を食べながら、おしゃべりをしていた。するとどこからともなく二人の女子大生が私たちのところにやってきて、私たちに話しかけてきた。
「あなたたち新入生?」とそのうちの一人が言った。二人を見ると、濃い化粧をしていて、短いスカートを履いていた。
「そうです」と私は言った。
「入るサークルは決まった?」と同じ女子大生が言った。
「まだです」と私は言った。
「どうして?」
「まだ、大学は始まったばっかりだし、そんなに早く決められないです」と私は言った。
「あなたたち、ダンスとか興味ない?」と同じ女子大生が言った。どうやらそれはサークルへの勧誘だった。私はダンスには全く興味がなかった。昔から運動会で無理やり踊らされるダンスが好きではなかった。
「あんまり興味ないです」と私は正直に答えた。すると女子大生は私と一緒にいる、別の男子学生に聞いた。
「あなたは?」
「ダンスってどんなダンスですか?」とその男子学生は言った。
「競技ダンスよ。タンゴとかチャチャチャとかルンバとか」と女子大生は言った。「うちのダンス部は歴史が長くて、いろんなダンスの大会に出て、いつも賞を獲ってるの。部員もたくさんいて楽しいわよ」するとその男子学生は少し考えて、「自分は興味があります」と言った。私は彼の言葉を聞いて驚いた。なぜなら彼と話していてダンスに興味があるようには全く見えなかったから。
「そう、じゃ今ダンスのデモをやってるから見に来ない?」
「行きます」とその男子学生は即座に言った。私が黙ってその男子学生と二人の女子大生のやりとりを見ていると、「あなたも来なさいよ」と私も女子大生に言われ、半ば無理矢理男子学生と一緒にダンスのデモンストレーションが行われている大学構内の一室に連れて行かれてしまった。

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