独り暮らしがはじまって2~3日すると、退屈と孤独さで、テレビが欲しいと思った。それで、街を歩き回って、テレビを売っている店を探して出して、テレビを買うことにした。その町に住み始めて、まだ2~3日しかたっていなかったので、何がどこにあるのか皆目わからなかった。知り合いもおらず、インターネットなんてものもないので、テレビを売っている店を見つけるためには、とにかく自分の足で町を歩き回る以外になかった。地下鉄の駅の中に電気店が一軒あるのは知っていた。そこにはエアコンや冷蔵庫、洗濯機などの家電から、アンプやスピーカー、レコードプレーヤー、CDプレーヤーまで何でも売っていた。店の中を歩き回っていると、もちろんテレビも売っていた。80型の巨大なテレビから、14型の小型テレビまで、いろんな種類を売っていた。自分の部屋で一人で見るだけだから、一番小さい14型のテレビで良かった。ところがその店に置いてある新品の14型のテレビは1万円以上した。私の予算は1万円以下だったのだが、その店に1万円以下のテレビは売っていなかった。私はその店でテレビを買うことをあきらめて、別の店を探すことにした。
それから私はテレビを売っている店を探して、その町を歩き回った。それはその町を知るのによい機会だった。主に駅の周辺を歩き回ったのだが、その町は自分のような大学生が生活をするのにとても便利な町であることが分かった。大きなスーパーマーケットが2軒あり、安い定食屋やレストランもいくつかあった。5階建ての大きな本屋もあり、古本屋があり、レンタルビデオ店もあった。少し離れた場所には大学があり、そばにある運動場は、静かで、散歩するには最適だった。1時間ほど歩いたところで、店先に中古の椅子や机が並べてある、古物店をみつけた。その店はテレビも売っているような気がした。私はその店に入ってみた。
店の中は昼間にもかかわらず、薄暗かった。その店は実にいろんなものを売っていた。机やいす、棚などの家具から、食器、洋服、靴、古本、CD、中古レコードなどを売っていた。ジーンズも安くで売っていたので、後でまたゆっくり来ようと思った。思った通り、その店はテレビも売っていた。50型の大きなテレビから、14型の小さなテレビまで7台ほど売っていた。14型の状態の良いテレビが8千円で売っていた。スイッチを付けて、いくつかチャンネルを回してみると、ちゃんと映像も映った。その映像は十分きれいだったので、それを買うことにした。店員と話をするために店の中を見渡すと、一番奥のカウンターに70歳ぐらいの老人が座って、新聞を読んでいた。私はその老人の近くまで行き、「すいません」と声をかけた。すると老人は新聞から顔を上げて、私を見た。
「あそこにあるテレビを買いたいんですけど」と私が言うと、老人は「どれですか」と言って、立ち上がり、私の方に近づいてきた。私と老人はテレビの置いてある場所まで行き、私は老人に自分の買いたいテレビを指さした。すると老人は、「あぁ、これね」と言ってそのテレビを持ち上げて、自分の座っていたカウンターの方に歩いて行った。 老人はそのカウンターにテレビを置くと、タオルを取り出し、そのテレビを拭きはじめた。拭き終わると、老人は私に言った。
「持ち運びができるように紐をつけましょうか?」
「いえ、結構です」と私は言った。
「じゃ、8千円ね」とその老人は言った。私はズボンの後ろのポケットから財布を取り出し、老人にお金を払った。支払いが終わると、私はそのテレビを抱えて、自分のアパートまで歩いて帰った。
部屋に帰って、早速そのテレビをアンテナにつないでみると、店で見た時と同じように、きれいな画面で映像が映った。これでしばらくは退屈せずに済むな、と思った。
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